政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセー「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
* * *
安倍晋三首相が繰り返し発言している「自分がドリルの刃(やいば)となって、あらゆる岩盤規制を打ち破る」。実際に政治主導によって霞が関ににらみを利かせることで、国民の様々な利害を直接実行するようにみせていました。
ところが連日報道されている不祥事や疑惑から見えてきたのは、政治が実際には官僚機構をグリップしていないだけでなく、政治と行政との構造的な矛盾になすすべのない姿です。結果として国家の土台が掘り崩され、これまで見たことのない危機的状況に陥っています。
20世紀の終わりに、小渕恵三元首相が各界の有識者を集め、21世紀の日本のあるべき姿を検討させていました。その報告書「21世紀日本の構想」には、日本の中核的な機構の制度疲労とグローバル化に対する危機がハッキリと書かれています。
この構想の「統治からガバナンス(協治)へ」というスローガンには、現在の安倍政権のように、官邸主導という名の強引な統治行為ではなく、中央と地方、官と民、国家と市民社会のそれぞれのエージェントが、おのおのの持ち場で政治に参加するソフトな協同的統治が模索されていました。そこには保守の知恵が生かされていたと思います。
それが、安倍政権では、異を唱えるものは誰であれ踏みつぶそうとする強圧的な統治行為になり、統治機構の中でイエスマンしか出世できなくなったのですから、様々な不祥事や疑惑が噴出するのは、必然だったと言えるかもしれません。
内憂でにっちもさっちもいかず、外に目を向けても、安倍首相のいう「地球儀俯瞰(ふかん)外交」の成果は感じられません。問題は山積みで、まさに内憂外患です。この状況は、終わりゆく平成という時代の一つの政治的な象徴かもしれません。
内憂外患を切り抜けていくには、オルタナティブ(代替勢力)が必要です。果たして、与党である自民党の中からオルタナティブが出てくるのでしょうか。与党自民党の中からも、内憂外患を突破するリベラル保守の力が現れてくるのかどうか、有権者は重大な関心をもって見守っているはずです。
※AERA 2018年4月23日号