陰謀論を否定するためには、一番確率が高そうな説を提示するのがいいんですが、地味でありきたりなので面白くない(笑)。でも、陰謀論には意表を突く、サプライズがあるから魅力的に映るのでしょう。フィクションとして楽しむ分にはいいですが、真実とは切り離して考えるべきです。
デマに騙(だま)されないためには、過去の事例に学ぶといいと思います。パッと見は奇抜で斬新な説でも、実は論理展開はパターン化されています。
例えば、ヘイトスピーチ規制の時に、「むしろ日本人が逆に差別されている」といった言説が出回りました。パッと聞くと「あ、そういう発想の転換ができるんだ」と虚を突かれるかもしれません。でも、実はナチスも同様のことを言っていたんです。アーリア人がユダヤ人から搾取されていたんだ、と。陰謀論では、こうした加害者と被害者を逆転させるというパターンは非常によく使われます。斬新な発想のようでも、実は手垢のついたレトリックだったりする。フェイクニュースのようなものを聞いた時に、「過去にも同じような事例がなかったか」と、立ち止まって考えるのは大事だと思います。
また、自分の主義主張にとって、都合のいい説が出てきたときに疑えるかどうかも重要です。歴史研究者と陰謀論者の一番の違いもそこにあります。私自身も意識していますが、自説を唱えるときに都合のいい資料が出てきたら「本当に大丈夫なのか」と検証する姿勢が大事です。陰謀論者は都合のいい情報に飛びつき「間違いない」と思い込み、都合の悪い情報は「フェイクニュースじゃないか」と耳をふさいでしまう。
研究者にとっては当然のことですが、フェイクニュースやデマがあふれる中、必要な知的態度だと思います。
(構成/編集部・市岡ひかり)
※AERA 2018年4月16日号