帰国後、北海道に帰郷して立ち上げたLS北見では「笑顔のカーリング」をテーマに掲げた。だからといって、放任ではない。
試合中の選手の会話とは対照的に、主将でコーチ席に座る本橋の言動は計算されている。
「言葉を一つかけるにしても、相手のキャラクターを理解した上でのタイミングやボリュームがある。『行けよ』って声をかけるべき選手もいれば、背中をポンッてたたくだけでいい選手もいる。そのさじ加減は、自分が冷静でなければ見極められない」
本橋以外の4人は、1人を除いて今回が初めての五輪だった。吉田知は北海道銀行で14年ソチ五輪に出場したが、閉幕直前に戦力外通告を受けた。いい思い出はない。
五輪出場が決まった直後に、本橋は年下のチームメートにこう語りかけている。
「オリンピックは怖いって思っているかもしれないけど、それは違うよ。怖いっていうのは誰かが感じて言ったことで、私は怖いって感じたことはないし、あったかい大会だなって思った。それは人によって違う。あなたが感じるオリンピックを、後輩に伝えればいいんだよ」
「あなたの人生においてとても良い経験ができるよね。メダルを取りたいのは全員一緒。オリンピックに出ることでいかに自分の人生を豊かにするかが大事なんだと思うよ」
一人一人が認められ、尊重される。大舞台でも臆せず意見でき、難しいショットにも挑戦できたのは、その安心感があったからだ。
銅メダルを確定させた日、吉田知は言った。
「氷の神様が味方してくれた」
今後は、目に見える味方も現れるだろう。これまでは選手がスーツを着て、頭を下げて企業スポンサーを集めてきたが、彼女たちと情熱を共有したいと考える人は少なからずいるはずだ。チームは持ち前の「肯定力」でそれを受け入れ、きっと新たな力に変えていく。(朝日新聞スポーツ部・渡邊芳枝)
※AERA 2018年3月26日号より抜粋