浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
3月4日、イタリアで議会選挙が行われた。なぜ、政治的真ん中が拒絶されたのか(※写真はイメージ)
経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
* * *
3月4日、イタリアで議会選挙が行われた。形としては、右派連合が辛うじて多数を占めた。だがその中で中道派は大幅な後退を強いられた。その一方で、最右翼に位置するレガ・ノルド(北部同盟)が大躍進を遂げた。いまやレガ・ノルドが右派連合の中の最大政党である。
単独政党として第1党の地位を勝ち取ったのは「五つ星運動」である。左翼陣営だが、過激な排外主義が売り物だ。選挙前に政権を担っていた民主党は惨敗。同党を軸とする中道左派連合は、議会内第3勢力の位置に甘んじることになった。
かくして、イタリア議会の勢力図は、左右の中道派によって構成される「真ん中」部分にぽっかり穴があく格好になった。有権者の支持が、きれいに左右両極に掃き分けられてしまったのである。いや、掃き分けられたという言い方は正確ではない。なぜなら、レガ・ノルドに投票した人々も、五つ星運動の支持層も、必ずしも右や左を意識したわけではない。ただただ、「現状は耐え難い、誰でもいいから何とかしてくれ」という思いを「真ん中の連中」にぶつけたのである。
なぜ、政治的真ん中が拒絶されたのか。それは経済社会的な真ん中が抜け落ちたからである。いわゆる中間層からどんどん人々が追い出され、突き落とされ、下層へと転落していく。真ん中が空洞化していく。
真ん中から突き落とされた人々の恨みつらみが、真ん中的な政治に逆襲の声を上げている。この声を煽り立てているのが、現代の偽預言者たち、すなわち、いわゆるポピュリストどもである。その扇動にいくら乗っても、人々は真ん中に戻れはしない。
真ん中から縁辺に追いやられた人々は、真ん中に連れ戻してあげなければいけない。さらにいえば、何人も縁辺に置き去りにしておいてはいけない。そこが肝心なところだ。だが、偽預言者たちにそれはできない。彼らは外敵を指し示すばかりだ。それに人々が気づいた時には、既に手遅れかもしれない。ふと我に返った時、人々は得体の知れない排外的独裁体制下で、二度と真ん中には戻れない場所に封じ込められてしまっているかもしれない。これは他人事ではない。
※AERA 2018年3月19日号