15年5月に行われた撮影は当初2日間の予定だったが、大杉さんが「いい町だ」と室蘭を気に入ったこともあり、4日間に延長された。大杉さんは散歩が好きで、撮影の合間には室蘭の喫茶店や飲食店を1人でふらっと訪れていたようだ。そのなかで、大杉さんの人柄が分かるこんな出来事があったという。

「ある喫茶店のママがサインを頼んだのですが、その時は紙がなくて漣さんはノートにサインをしたようなんです。でも翌日の朝、大杉さんは自分で色紙を買って『ちゃんと書き直してきたよ』とママに届けてくれた。誰にでも分け隔てなく、自然とそういうことができる方なんだと思います」(坪川さん)

 最近も、坪川さんの子どもたちに駄菓子が詰まった段ボール箱が届き、「食べ過ぎないように 漣」とメッセージが添えられていたという。

「映画では、漣さんからにじみ出る人柄も映っているはずです。完成させて、皆さんに見てもらうことが僕の役目。公開されたら、一緒の船に乗ってくれた漣さんに『やっと港に着いたよ』と報告したい」(同)

 大杉さんには、動物好きな一面もあった。自宅ではチワワの「風ちゃん」、映画で共演して引き取ったの「トラちゃん」と暮らしていた。亡くなる3日前のブログにも「トラ こんな顔でぼくを見ます ご飯にして欲しいのだと思います」と愛猫の写真をアップしていた。今年1月には盲導犬への応援メッセージを寄せている。取材に立ち会った盲導犬総合支援センターの岩間智美さんはこう振り返る。

「盲導犬ユーザーの方の目をしっかりと見て、優しそうにお話しされていました。インタビュー中は盲導犬と楽しそうに触れ合って、最後には『またね』とお声がけされていました。うれしそうな表情やしぐさから、人と動物との暮らしを本当に大切にされている方だと思いました」

 誰よりも人や動物を大切にしてきた大杉さんだからこそ、あれだけ多彩な顔を演じられたのかもしれない。(編集部・作田裕史)

AERA 2018年3月5日号

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