恋愛小説よりも豊かな歌の世界に引き寄せられた知花くららさん。時間を忘れるほど言葉を探した。「歌人の登竜門」とされる賞で佳作に輝く。そして今回、初心者向けの入門書を出版した。短歌の魅力を聞いた。
「日記をつける方って多いと思うんですけど、短歌も日記のようなものだと思っていて。毎日の忙しさに埋もれていっちゃうような心の機微も残せるんです。どんなにへたくそな歌でも、あとから読み返したときにハッとする。心を言葉にして書きつけるという行為は、大袈裟だけど生きているという感じがする。切った爪の先を残していくようなものというか……」
短歌の魅力について尋ねると、知花くららさんはパッと笑顔になって楽しそうに教えてくれた。
知花さんは2017年、歌人の登竜門と言われる角川短歌賞で佳作を受賞。今、歌壇で注目されている新人でもある。さらに今年1月、初心者に向けた短歌の入門書『あなたと短歌』を出版し、ますます歌人としての存在感を強めている。
『あなたと短歌』は16年に「週刊朝日」で連載していた「知花くららの『教えて! 永田先生』」を大幅加筆のうえ再構成した本だ。現代短歌を代表する歌人であり、細胞生物学者でもある永田和宏さんに短歌を詠むコツを教わった。知花さんが初心者の視点で質問をぶつけ、永田さんがやさしく解説する対談形式で、本当にハードルが高くない短歌入門書として好評だ。
「こうして本になると『短歌? へー……』とか『なんで短歌なの?』と改めて聞かれることも多い。短歌って俳句に比べて浸透していないなぁというのが実感としてあるんですけど(笑)、この本を読んで『やってみたくなった』とおっしゃる方も結構いて。それは連載中のテーマだったから目標通りいってよかったなぁと思っています」
知花さんが短歌にハマったのは5年前。ひょんなことからプレゼントされた一冊の本に運命を大きく変えられた。その本とは『たとへば君 四十年の恋歌』。「週刊朝日」連載の師である永田さんと、永田さんの妻であり歌人の河野裕子さんが亡くなる前日までやりとりしていた歌を収めた本だった。喫茶店で読み始めると、思いがけず大号泣してしまった。口語で詠まれる現代短歌の新鮮さ、言葉が放つ輝きに驚き、短歌一首で表現できる世界の深さに魅了された。