岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」のなかで、特に注目され、国会でも議論になっているのが児童手当の所得制限撤廃の是非だ。現行の児童手当は、世帯(夫婦と子ども2人の場合)で最も高い人の年収が1200万円未満の家庭に支給される。また、年収が960万円以上1200万円未満の場合は、特例給付として減額支給される。いくつかの報道機関が実施した世論調査によると、いずれも所得制限を撤廃しなくていい、つまり高所得世帯への給付を支持しない声のほうが多かった。財政や税制が専門の慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授もこの声に賛同する。
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「負担増を嫌う国民が多いうえ、財源には限りがあるわけですから、まず救うべきは低所得の子育て世帯だと思います。児童手当に所得制限を残したほうが、低所得の子育て世帯に給付を多くできる。より有効な少子化対策になると思います」と、土居教授は語る。
そもそも、なぜ子育て世帯に児童手当が必要なのか?
データを見ると、子育て世帯の生活の苦しさは全世帯のなかでも際立っている。高齢者世帯と比較すると、それがよくわかる。
厚生労働省の「2021(令和3)年 国民生活基礎調査の概況」によると、児童のいる世帯の平均所得金額(20年)は813万5000円なのに対して、高齢者世帯は332万9000円。
ところが、である。
生活について、「苦しい」と答えた世帯の割合は、児童のいる世帯は59.2%、高齢者世帯は50.4%。平均所得金額がずっと少ない高齢者世帯よりも児童のいる世帯のほうが「生活が苦しい」と感じている割合が高いのだ。
■通塾費用に4倍以上の差
子育て世帯の家計を圧迫しているのが教育費だ。ベネッセ教育総合研究所の「学校外教育活動に関する調査2017」によると、幼児から高校生までの子どもを持つ全国の母親約1万6000人のうち、67.2%が「教育にお金がかかり過ぎると思う」と回答した。