学力格差は経済格差、といわれる。生活が苦しい子育て世帯のなかでも世帯年収によって通塾費用には大きな開きがある。
1カ月あたりの教室学習活動の費用は、世帯年収400万円未満が3300円。400万~800万円未満が6100円。800万円以上が1万3800円。つまり、年収800万円以上の世帯は、400万円未満の世帯の4倍以上も塾などに通う費用を支出している。
先の厚労省の調査によると、児童のいる世帯の平均所得金額は、11年は697万円、20年は813万5000円で、16.7%増加している。一見すると、子育て世帯の所得は右肩上がりに増えているように見える。
しかし、この数字を押し上げているのは、主に世帯所得金額1000万円以上の裕福な家庭だ。この世帯が占める割合は11年に15.6%だったのに対して、21年は24.8%に増加している。
21年の年収800万円未満の子育て世帯は全体の59%を占める。つまり、この10年で、一部の富める子育て世帯はますます富み、中間層以下の大多数の世帯との二極分化が著しくなっていると言えそうだ。
■「姥捨て山」はあったのか
話を児童手当の撤廃の是非に戻そう。
土居教授によると、児童手当の所得制限撤廃を求める背景には、「分け隔てなく全ての子どもに児童手当を給付すべきだ」という「普遍主義」の考え方がある。そして、所得制限があることによって子育て世帯が分断されている、との指摘もあるという。
「しかし、現実には低所得者層と高所得者層の子育て世帯の分断のほうがずっと深刻で、その溝を埋めることが求められている。なので、所得制限に賛成する国民が多いのだと感じます」
土居教授は、普遍主義を全面否定するわけではないとしたうえで、所得制限が子育て世帯の分断を生んでいる、というのは根拠のない感情論にすぎないという。
それに似た事例として、08年に後期高齢者医療制度が導入される前に湧き上がった「姥捨て山」論争を挙げる。