「神職が一人の人間として政治的立場を明確にして発信することは、市民として問題はない。ただ、超政治的な空間であるべき『お宮』を使って改憲署名を集めたり、特定の議員だけに境内を使わせたりすることは、地域の公共性に反する」
昨年10月、秩父神社でも同様のことが起こってしまった、と薗田宮司は後悔する。先の衆院選で、地元選挙区の自民党系候補者の出陣式を神社境内で行ってしまった。前例はなかったが、同神社幹部が議員と懇意だったこと、議員が「神道政治連盟国会議員懇談会」に所属していたことなどから、薗田宮司も知らぬ間に場所を貸した。
「お宮を使ってある政治家に肩入れすれば、その後、神社が政治的紛争に巻き込まれる可能性がある。神さまを政治に利用することだけは、厳に慎まなければなりません」(薗田宮司)
憲法改正は、自衛隊明記には賛成だが「9条1項(戦争放棄)は残すべきだ」という立場。神社本庁が主張する「天皇の元首化」についてはこう話す。
「絶対君主制の響きを残す『元首』ではなく、今の『象徴』のままでいい。天皇は権威ではあるが、権力ではない。戦後70年以上かけて、象徴天皇制とは何であるかが国民にも浸透して、受け入れられていると思います」
『神社と政治』の著書がある千葉大学の小林正弥教授(政治哲学)は、「神社の署名活動などは政教分離には違反しない」と前置きした上で、こう語る。
「神社界が政治的主張をするのなら、それが宗教的にどう正しいのかという理由も明示されるべきです。しかし、戦前に宗教行為と切り離された神社界は、戦後も習俗的な側面が強く、宗教的な意味をあいまいにしてきた。ゆえに、教義や生き方について具体的な『正しさ』が一般的にはあまり示されていない。神道的な正当性が示されずに、改憲や政権支持と言うなら、それは単なる政治的ナショナリズム運動であり、宗教的行為ではありません」
キリスト教や仏教系の団体が安保法制反対運動などを展開した流れとは、宗教的理念の有無という点で大きく異なる。
「安倍首相の改憲私案に、神社界が切望する『天皇の元首化』や道徳的な『家族条項』が入っていないことへの意見表明もない。天皇の退位でも政府の姿勢を追認して、独自の見解を出せなかった。これでは『神道界も賛成している』という印象操作のために政治家に利用されかねません」(小林教授)
神道政治連盟は本誌の取材に、改憲について「改憲4項目は自民党が緊急性がある条項として示したものと考える。本連盟はこれまで主張してきた内容を含め、国民的議論を活発化していきたい」とコメントした。(編集部・作田裕史)
※AERA 2018年1月15日号より抜粋