事件から20日。富岡八幡宮(東京都江東区)を歩いた。
境内の奥に歴代横綱を顕彰する横綱力士碑がある。その石碑を背後から見下ろすように、亡くなった富岡八幡宮の宮司、富岡長子さん(58)の自宅がある。洋館風の瀟洒(しょうしゃ)な住宅で、神社敷地内でひときわ異彩を放つ。地元の不動産会社によれば、
「4億円はくだらない。地元では賽銭(さいせん)御殿と呼ぶ人もいます」
警察の規制線はすでに取り払われていた。12月7日夜、元宮司で弟の茂永容疑者(56)は姉に向かって日本刀を振りかざした。襲われたのは、自宅の玄関前だった。現場には、花が四つ、手向けられていた。歴史ある神社の宮司の死としては、寂しい光景だ。
心を許す相手はいなかったのだろうか。生前、長子さんは10匹以上の犬と、この自宅に一人で住んでいた。2010年に宮司代務者となってからは、新宿歌舞伎町のホストクラブにも足しげく通っていたという。長子さんが通っていた店に出入りしていた人物はこう話した。
「指名するのは20代前半の若いホスト。VIPルームを使い、一本100万円以上するクリスタルボトルを注文することもあった。月の支払いは200万円以上。いつも運転手付きの車で店まで来ていました」
富岡八幡宮は12月25日、丸山聡一・権宮司が当面の間、宮司代務者として神社を取り仕切ることを発表。宮司不在のまま、新しい年を迎えることになる。代々、富岡家が座ったそのポジションに、茂永容疑者は最後まで執念を見せた。
茂永容疑者が事件前にしたためたと見られるA4用紙8枚につづられた手紙。2800通が、事件後に全国の神社、富岡八幡宮の氏子など関係者に郵送された。茂永容疑者はその手紙のなかで具体的な要求を四つ挙げ、その一つが自身の息子を「即刻富岡八幡宮の宮司に迎える事」だった。もし、要求が実行されなかった場合は、
「私は死後に於いてもこの世に残り、怨霊となり、私の要求に異議を唱えた責任役員とその子孫を永遠に祟り続けます」