羽生善治竜王の後を追うように、勝利を重ね続ける中学生の新星・藤井聡太四段。羽生と比較しながら藤井の未来を将棋ライター・松本博文氏が語る。
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2017年12月。現代将棋界の第一人者であり、「史上最強」とも呼ばれる羽生善治が、竜王位に復位した。同時に「殿堂入り」とでもいうべき規定を満たして、「永世竜王位」も獲得。七大タイトル戦すべてにおいて、永世称号資格を達成するという、空前の偉業を成し遂げた。ほどなく政府が羽生に対して、囲碁の井山裕太七冠とともに国民栄誉賞の授与を検討中との報道も。羽生は将棋界という枠を飛び越え、現代日本における知性の象徴でもある。「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」という国民栄誉賞の受賞条件を満たしているのは、言うまでもない。
そんな羽生の現実離れした実績の後には、常に「空前の」という枕詞がついてきた。だが、それが「絶後」かどうかはまだ分からない。もしかしたら羽生を超える大天才かもしれない、藤井聡太の存在があるからだ。
永世七冠の偉業に「羽生先生が積み上げてこられたものの大きさを改めて感じています」と敬意を払う藤井は、16年に史上最年少の14歳2カ月でプロ入りを決めた新星。17年には、多くのマスメディアが熱狂のうちに伝えた通り、デビュー以来負けなしで公式戦最高記録となる29連勝を達成した。
羽生が残した実績も10代のうちから桁違いだった。だが現時点での藤井は、そのペースをも上回る勢いで勝ち続けている。将棋界の根幹をなす「順位戦」では、新人が組み入れられるC級2組に参加し、全10戦のうち7連勝(12月時点)。羽生でさえも昇級まで2期を要した難関を、藤井は1期で通過してしまうかもしれないのだ。藤井の今後に期待するな、というほうが無理だろう。
とはいえ、藤井の未来はまだ未知数。12月にあったNHK杯3回戦では、A級棋士で格上の稲葉陽八段に対して、大熱戦の末に敗北を喫した。直近(12月21日現在)の年度勝率は0.830(44勝9敗)。依然、夢のようなハイアベレージであることに変わりはないが、1967年度に中原誠五段(現十六世名人)が記録した歴代最高勝率0.855(47勝8敗)を上回るのはやや困難な状況だ。