そんな高島さんが出演する映画「いちばん逢いたいひと」は、同じ太田プロに所属する俳優で演出家の丈さんが脚本と監督を担当した。
「丈さんはお芝居で何度もご一緒していますが、ご自分で劇団を立ち上げて、演出もずっとやってきている。劇団って続けるのが大変なので、たいていの人は途中でやめちゃうんですよ。でも、丈さんは地道に続けていらして、前から、『丈さんが映画を作るなら、私も通行人でもいいから出してね』なんて言ってたんです。そうしたら、本当に呼んでいただけて」
「いちばん逢いたいひと」は、急性骨髄性白血病と診断された11歳の女の子・楓が、病気を克服し、社会人になってから一人旅に出る。その楓のドナーとなった柳井健吾は、最愛の娘を白血病で亡くし、ドナーになったことが人生で唯一の誇りだった。高島さんが演じたのは、楓の母親役だ。
「本作のプロデューサーさんの娘さんが白血病を患い、ドナーさんのおかげで乗り越えた経験があったことが、今回の映画作りのきっかけになったと伺っています。丈さんも、ちょうど命と向き合う経験があったので、この作品に全力で向き合いたいと思ったそうです。そうしたら、私の旦那役の大森(ヒロシ)さんも楓のおじいちゃん役の不破(万作)さんも、ご家族が白血病を患ったことがあったと、後になって知りまして……。大森さんは現場で終始明るかったんですが、それが実体験から来たものかと思うと、あらためて『みんなそれぞれに魂を込めて演じていたんだな』と、胸に迫るものがありました」
「ドナー登録しませんか?」という貼り紙はよく目にしても、それだけでは、「はい、します」とはならないのが現実だ。
「でも、こうやってドナーになった人と、それによって助かった命を映画にして見せるのは、説教くさくないし、それぞれが病気になることやドナーになることを、“自分ごと”として考えられるいい機会だと思いました」
映画の前半で描かれるのは、11歳の楓の闘病生活だ。高島さんは、丈監督が子役に細かく芝居をつけていくのを見ながら、「はい」「はい」ときちんと話を聞いて、言われたとおりに芝居を変えていく、子どもたちの素直さに刺激を受けた。
「素直さって大事ですよね。年齢を重ねていくと、人間って頑固になるじゃないですか。私は、頑固になるのだけは絶対に避けたいと思っていたので、子役の皆さんの真摯な態度を見るにつけ、『いくつになっても、人の話には耳を傾けなければ!』と。それと同時に、『だけど』とか『でも』みたいな、相手を否定するような接続詞はなるべく避けよう、とも思いました」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※週刊朝日 2023年3月3日号より抜粋