SLやまぐち号に採用されたD51-200。JR西日本梅小路運転区内を試走し、大規模修繕して本線に投入されることになった(撮影/楠本涼)
SLやまぐち号に採用されたD51-200。JR西日本梅小路運転区内を試走し、大規模修繕して本線に投入されることになった(撮影/楠本涼)
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 毎年3月から11月まで、山口県の新山口駅(山口市)から島根県の津和野駅(津和野町)を走る山口線SLやまぐち号。2017年11月、その牽引(けんいん)機のひとつとして、JR京都駅近くの京都鉄道博物館(京都市)に隣接する梅小路運転区所属のD51が加わった。

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 SLやまぐち号は1979年8月の運行開始以来、日本中の鉄道ファンを魅了してきた。5両の客車は家族連れや観光客で満員となり、沿線には煙を出して走るSLの雄姿を一目見ようと多くの「撮り鉄」が集まった。同線にはこれまで、優美な姿から「貴婦人」との愛称があるC57が走っていた。SLの代名詞である「デゴイチ」投入で、さらに魅力が増すことは確実だ。

 本走行前の試運転を見守っていたJR西日本・梅小路運転区の総括助役・長澤浩一さんは、こう語る。

「ふつうの電車と違って蒸気機関車は、駆動機関にベアリングが入っていないので、油が切れれば車軸や駆動輪が摩擦ですぐに故障してしまいます。車軸の温度が摩擦熱で上がらないようにするには、コンマ何ミリの調整が必要で、山口線を走らせる前にこの梅小路で入念なチェックを行うのです。走行前には潤滑油のチェックポイントだけでも200カ所以上あり、機関士には細心の注意が求められます」

 蒸気機関車は別名「移動式内だき横煙管ボイラー」とも呼ばれる。横向きの巨大なボイラーで石炭を焚(た)いて水を沸騰させ、水蒸気を動力に変えることで、80トン近い機関車が客車を最高時速75キロで牽引する。そのため機関士には、SL運転免許のほかに、ボイラー技士1級の資格も必須となる。通常の電車で十分な経験を積んだ後、蒸気機関車を運転するための特別な訓練を一定期間受けた機関士だけが、運転室でSLを操縦できるのだ。

 新幹線のぞみが日本の東西を時速300キロで結ぶようになった現在も、JR西日本は戦前に作られた蒸気機関車を歴史的資産として保存・運用に努めている。このSLやまぐち号にもATS(自動列車停止装置)などが装着されているが、駆動系の機構はすべて当時のままだ。

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