少子化で大学経営の危機が叫ばれるなか、一点突破で特色を出す大学が注目を浴びる。名門ブランドに頼らない、もう一つの大学の選び方だ。
今日のプログラムは筋トレ。集会場に集まった地元住民は、高齢者が多い。負荷のかかる体勢が続くと、助けを求めるように壇上を見上げる。
指導しているのは、健康運動指導士を目指す松本大学スポーツ健康学科の学生たちだ。
「つらそうな顔をしてこっちを見ても逆効果ですよー、ぼくうれしくなって、もっとやっちゃいますからね」
壇上の男子学生から冗談が飛ぶと、場が和んだ。彼は参加者を気遣う声掛けも忘れない。
「水分も適度に補給してくださいね」
健康運動指導士とは、生活習慣病の予防や健康づくりを目的に、安全で効果的な運動プログラムをつくる指導者のことだ。厚生労働省管轄の公益財団法人が認定しており、超高齢化社会を迎えて、健康寿命を延ばす観点から、病院や介護施設などでの活躍が期待されている。
松本大では、この資格を座学だけではなく、地域住民を対象とした実習を通じて学んでいく。学科長の根本賢一教授はねらいをこう語る。
「健康運動指導士を大学で育成すれば、地域にとっても学生にとってもプラスになると考えました。実習場所を確保するため、近くの村に行き理解と協力をお願いしたこともあります」
保健師らから、「学生で本当に大丈夫か」と心配されたこともある。根本教授は当初、すべての講座に付き添った。適切な指導内容か、参加者の様子を見ているか、意図は伝わっているか──。
「学生たちは準備や臨機応変な対応の重要性を痛感しますし、さまざまな人がいることを知るなど、現場に出て学ぶことも多いのです」(根本教授)
3年生からのゼミで講座に参加し、先輩の姿を見て、自分なりのやりかたを模索する。この日、てきぱきと指導していた4年生たちも、「当初は人前で話すことが苦手だった」「天気の話くらいしかできなかった」と話した。