


閉鎖的なイメージを持たれる京都の人間とコミュニティー。果たして京都は「いけず」なのか。起業文化から見えてくるその本質とは──。
京セラやオムロンなど大企業が拠点を置く京都は、「ベンチャーの都」という顔も持つ。東京など他の大都市と一味違うのは、海外への発信力や知の集積地としての注目に加え、起業界隈を歩くと見えてくる「一見さんお断り」にも通じる独特の文化だ。
かつて花街だった京都市下京区の島原地区。町家が軒を連ねる通りを散策すると、しゃれた建物が現れる。町家を活用した商業施設「itonowa」。周囲には店もなく静かな界隈だが、ひっきりなしに人が訪れる。
奥は広く階段もあり、アパートメントのよう。「身の丈で起業する『小商い』の人たちが入居しているんです」とオーナーの村田敬太郎さん(45)。大阪の広告会社を退職し実家の呉服店を継いだのち、所有する町家の活用策として2年前に開業した。
その看板店「GOOD TIME COFFEE」は、さまざまな人たちが集う交流の場も担うコーヒースタンドだ。
「大阪通勤時代は京都には関わりがなかった」という村田さん。だが「場」をつくると、つながりができた。「人と会うのも話すのも苦手だったのに、人生が激変した」と笑う。
GOOD TIME COFFEEの店主・西山拓磨さん(34)はもともとデザイナーだ。itonowaのデザインを手がけたのがきっかけで村田さんのカフェ開店の思いを知り、畑違いの事業に挑むことに。itonowaの店が縁となり、このほど東山に2店舗目を開店、本業のデザイン事務所も大阪から京都への移転が決まった。
「大阪は仕事になるのは早いが終わるのも早い。京都では、人との出会いは『始まり』」と西山さん。内装も材料の仕入れも知り合いに頼む。「お互い潤う」との感覚で、経済が回るのが「断然面白い」。
人との縁で図らずも新しさが生まれる。京都はそういう町だ。店主の趣向を前面に出す“小商い”がブームだが、互いにつながり、客を共有する店も目立つ。
起業家らのハブ的存在が複数いるのも特徴だ。その一人が、起業支援拠点「京都リサーチパーク町家スタジオ」館長のタナカユウヤさん(33)。移住者の暮らしや仕事を支える「京都移住計画」事業も手がけ、人と人、人と企業の出会いが生む「化学反応」で京都が進化するのを楽しむ。そんな「つなぎ人」同士も交流し、ネットワークは蜘蛛の巣のように広がっていく。