経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、経済について鋭く分析します。
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アメリカで会社を経営していると、日本経済はこのままいって本当に大丈夫かな、と気になることが多々あります。
例えば新たな事業パートナーを探すとなると、世界中からオファーが来ます。当然、日本のかなりの大手企業からも来るのですが、その提案内容は金太郎あめのように均一なんです。
一方、アメリカはもちろん、東南アジア、インドなどの企業からはびっくりするような奇抜なものがたくさん出てくる。アメリカといってもヨーロッパ系(北欧、ゲルマン、ラテンなどでかなり違う)、メキシコ系、アジア系などそもそも「多国籍」なわけですが、日本企業はオール日本人、しかも似たような学歴の人で成り立っていることに気がつきます。
人種だけではありませんね。日本ではどこの企業(例えば銀行を思い浮かべてください)でも、理系の人は珍しい。東大、早慶などの文系の卒業生がほとんど、という構成になっています。
ちなみにわが社の人種構成はまさに多国籍で、アメリカ人(北欧系、イタリア系、ユダヤ系、メキシコ系、インド系)、インド人、ロシア人、日本人。アメリカではごく普通です。学歴もまさに多様で、経済学部を出ているのは私だけ。あとは考古学、物理学、海洋生物学、鉱物学など、およそ金融とは無縁のバックグラウンドの人たちが集まって金融業をやっていて、その結果、ビジネスにも多様性がもたらされるのです。
有名なノミの話があります。ノミというのは、自分の体長の150倍もの跳躍力があると言われているのですが、小さな箱の中などに入れてしばらくすると、その箱の範囲でしか跳ばなくなる。箱を外してもそれしか跳ばなくなるのだそうです。ところが、そのノミの集団に本来の跳躍力を持つノミを1匹入れただけで、他のノミも同じようにまた跳べるようになると言います。
ノミに例えて申し訳ないんですが、こうして見てみると今の日本企業、あるいは日本社会全体が「箱の中でしか跳べないノミ」になってしまっているような気がしてなりません。今は食うには困らないかもしれませんが、このままやっていても限界は見えている。解決方法は簡単ですね。ちゃんと跳べるノミを集団の中に放り込めばいい。残された時間はあまりないような気がしますが……。
※AERA 2017年10月16日号