要は、担当者が「原子力安全委員会と手を握っているから余計な事を言うな」「あまり関わるとクビになるよ」と言われる状況下で、女川原発が貞観地震の問題をすでにクリアした事実を公開できなかったということだろう。
規制庁の内部資料によれば、この報告書だけでなく保安院の指示文書など少なくとも32点の関連資料が政府事故調には提出されていたとみられる。しかし、政府事故調委員で貞観地震の津波を熱心に調べていた作家の柳田邦男氏は「委員レベルには一切上がってきていない」と断言する。政府事故調の報告書は、前述した「クビになるよ」と言われた小林氏の聴取結果にも触れていない。
結局、国策のプルサーマル推進のため、政府は10年当時、津波対策で先行する東北電の対策状況を伏せ、東電の不作為を助けたと受け止められてもおかしくない経過だ。そしてあろうことか、政府事故調の事務局は、それを知りながら報告書に記載しなかった可能性もある。
9月22日、千葉地裁は、福島第一原発事故における国の責任を認めない判決を下した。3月の前橋地裁判決とは真逆だ。10月10日には、福島地裁で被害者約4千人が国や東電を訴えた裁判の判決もある。だが司法判断のもとになる、国の責任にかかわる重要な事実は、まだ、隠されている。(ジャーナリスト・添田孝史)
※AERA 2017年10月16日号より抜粋