タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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人生に不安はつきものです。冷静な判断が大事だけど、時には一緒にいてくれる人や、お守りだって欲しい。だから占いに頼る、という人もいるでしょう。わかります。私のデスクの前には、お正月に切り抜いた今年の獅子座の運勢占いの記事が貼ってありますから。
友人に一人、「星男」がいます。東西の占星術に詳しく、世間話ついでに、今の星の配置はこうだよなんて教えてくれます。毎度へええ!と面白く聞いて、大半を忘れてしまいます。星の話を聞いただけで満足しちゃう。
占いは、長い年月をかけて蓄積されたデータ。大事に扱ってきた人たちの知恵と工夫が詰まっています。伝統工芸品みたいですね。古いものに照らして自分が語られたことに安心する。それが私の占いとの付き合い方です。
なんだか気持ちが塞ぐから占いにでも行こうかと思うけど、他人に頼っちゃう自分てどうよ、と悩んでいる人にお薦めしたい一冊があります。春日武彦『鬱屈精神科医、占いにすがる』(太田出版)。タイトルそのまま、精神科医である春日さんが占師巡りにはまってしまう顛末が綴られています。
老境が見えてきたのに、著書が思うように評価されない。評価してくれない世の中につい悪態をついてしまう。その鬱屈の根っこには、亡き母への執着があるのです。重たい話かと思いきや、読みながら何度も笑ってしまいます。医師として自分の心のありようを冷静に分析しているので、ああ私も同じ!なんて思い当たる節がたくさん。でも一番の読みどころは、幼い頃の思い出とともに“救済”について考察するくだりです。とても、とても美しい。
人生は思うようにはならないけれど、誰かのまなざしが「それでいいよ」と言ってくれることがあります。本を読むのも星を読むのも、そんな誰かを探す旅なのかもしれません。
※AERA 2017年10月2日号