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AERA(2017年8月14-21日号)では、「この国を覆う不機嫌の正体」について特集している。作家・心理学者の岸田秀さんに話を聞いた。
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日本の近代は明治維新以来のナショナリズムの動員に由来します。しかし戦後は、戦勝国アメリカが標榜する自由と民主主義に基づく価値観に全面更新されました。一方で、封印されたナショナリズムは、60年安保や三島由紀夫の割腹自殺など、左右両派を問わず散発的症状のように表面化します。その都度否定されますが、日本社会の底流に引き継がれてきました。
戦後の日本人を精神分析すると、「攻撃者との同一視」がうかがえます。疑似的に勝者の立場に身を置くことにより、敗者となった事実を否定する心理です。冷静にみると、戦後日本はアメリカの属国として服従しているのは明らかですが、それを認めるのは屈辱なので「日米パートナーシップ」などと対等性を装っているのが実情です。
安倍晋三首相が掲げる「戦後レジームからの脱却」は、矛盾を巧妙にごまかすものです。ただ、これが国民の安寧を保つ作用も否めません。事実の否定は国家の弱体につながります。先の戦争の主な敗因は、国民に対してだけでなく、軍内部で虚偽の戦果報告が繰り返された点にあります。
日本はなぜ真の独立を果たせないのか。日本という国を日本人が正確に捉えていないからだと思います。右派は大日本帝国時代の日本を全肯定し、左派は全否定しがちですが、現実は100%正義も100%悪もありません。属国状態から脱し、かつ平和で豊かな暮らしを築くにはどうすればよいのか。その実現可能性と真剣に向き合わない限り、日本国家は両極端の間で不安定に揺れ続けるしかありません。(構成・編集部/渡辺 豪)
※AERA 2017年8月14-21日号
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