北海道の農業は岐路に立たされている。TPP(環太平洋経済連携協定)の先行きは見通せないが、安価な外国産農産物の輸入増は迫られ続ける。北海道の食料自給率はカロリーベースで200%を超すが、今のままでは黄信号が灯る。「個性豊かな農業」は北海道農業の持続、発展へ一つの処方箋に見える。

 もう一つ。服部さんが口にした言葉がずしりと響いた。

「テロワール」

「土地の風景」といった意味を持つフランス語だ。服部さんが栽培したトマトを口にする度に羊蹄山麓の景色を思い出す。そんな「ニセコならでは」の農産物づくりを目指したいという。

 北海道大学大学院農学研究院の小林国之准教授は、フランスの山岳地帯の酪農を調査した。牛は山の花々を食み、その乳で作ったチーズは「花の香りがする」と人気。都会っ子は、山岳地帯の風景と風味あふれるチーズを堪能しにやってきていた。

「食が生まれる背景にある文化を大切にしている、と感じた」

 小林准教授は、北海道にもそんな農村感を育みたいと考える。

 ニセコ町で宿泊施設を経営する、さとう努さん(53)、愛称「トムさん」も次代のニセコを見据えて動きだす。

 東京生まれ。02年秋、ニセコに移住。翌春から宿泊業を始めた。冬のイメージが強かったが、夏のニセコに可能性を感じた。熱い視線を注いだのはニセコに約30軒ある温泉。毎夜、宿泊客を車に乗せ、「おばんでした」とばかりに温泉巡りを始めた。

 温泉といっても湯の成分はさまざまだ。浸かり方にも違いがある。温泉研究に没頭し、全国に4人しかいない「温泉ソムリエ師範」となった。

「スキー客は冬しかニセコに来ない。温泉好きは通年でやってくるのではないか」

(ジャーナリスト・綱島洋一)

AERA 2017年7月31日号より抜粋

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