●東京五輪以降は不透明
空前の売り手市場に学校側も反応している。高校のキャリア教育支援をするNPO法人若者就職支援協会の黒沢一樹理事長は「我々の支援先はいわゆる進学校ではない」としたうえで、
「2人に1人が奨学金で大学に進学する時代になり、就職後も奨学金を返還し続けられる職に就けるか分からない。売り手市場の間に、就職させたいと考える進路担当教諭が増えている」
就職させようとする理由には、大卒就職との違いもある。
「高卒就職は職場見学や応募書類の作成も学校がすべてサポートする。大卒就職も売り手市場だがコミュニケーション力の有無で内定をとる人と、そうでない人に二極化。確実に就職するには高卒就職のほうがたやすい」(黒沢理事長)
都立青井高校(足立区)は生徒の約3割が就職の道を選ぶ。進路担当の浦部ひとみ教諭は、現場の状況をこう口にした。
「進学を選べば就職活動をするのは東京五輪以降。今のような売り手市場とは限らない」
不登校や高校中退者らが目標を見つけ、それに向かって挑戦することを目的に東京都が設置した「チャレンジスクール」の一つ、都立稔ケ丘高校(中野区)では、高卒求人の急増と共に就職者の割合が増え、昨年は全体の9%に。疋田誠教諭は言う。
「まだ自信を完全に回復しておらず、明確な進路希望がない生徒には、就職も考えたらと話すことがあります。4年後に上位の大学生と同じ土俵で就職活動をすることを考えると、求人に恵まれた今の間に就職させたほうがいいという思いもある」
ただ、売り手市場だからといって、安易に就職を選んでも失敗する。『奨学金が日本を滅ぼす』などの著書のある中京大学の大内裕和教授(教育社会学)は、
「大卒は入社3年で3割が離職するが、高卒は4割だ。離職すると正規雇用での再就職は厳しく、選択肢も限られてくる」
例えば、転職サイト「マイナビ」には8289件(7月25日時点)の求人情報があるが、学歴不問の求人は4735件だ。