今年4月に入社し、インフォメーションに配属された東武百貨店の新卒社員。同社は高卒採用を昨年再開すると同時に、一般職から総合職に転換する制度もつくった(撮影/伊ケ崎忍)
今年4月に入社し、インフォメーションに配属された東武百貨店の新卒社員。同社は高卒採用を昨年再開すると同時に、一般職から総合職に転換する制度もつくった(撮影/伊ケ崎忍)
この記事の写真をすべて見る

 高校生に対する求人が急増中だ。進学か、就職か──。空前の売り手市場に、高校の進路現場で異変が起きている。奨学金が社会問題化する中、確かな選択に頭を悩ませている。

*  *  *

 高校生の就活が始まった。企業がハローワークに求人票を提出し、受理されたものが例年7月1日に公開され、採用活動が始まる。就職希望者の多い市立川崎高校定時制(川崎市)進路指導部主任の高橋正太郎教諭は、嬉しい悲鳴を上げた。

「ここ5年で学校に届く求人数が倍増している。これまでは会社ごとに求人票をファイリングしていたが、今では業種ごとにまとめないと整理ができない」

 高卒就職が空前の売り手市場だ。2017年3月卒の求人数は6年連続の増加となる約38万7千人。高卒の求人倍率は2.23倍と、大卒の1.74倍(17年3月卒・ワークス大卒求人倍率調査)を大きく上回る。進学者の多い都市部の求人倍率は高騰し、東京都では6.93倍、大阪府では3.46倍に達する。今年は昨年を上回る売り手市場になりそうだ。

●高校生のほうが素直

 就職の実績が豊富な都立第四商業高校(練馬区)の進路指導部主任の對馬秀男教諭はこう話す。

「昨年7月に学校に届いた求人数の半数が、今年は最初の3日で集まった。高卒採用を再開する企業に加え、新規で高卒採用を始める企業も増えている」

 背景にあるのは、景気回復に伴う人手不足だ。これまで大卒をターゲットにしていた企業でも、なかなか大卒が採れず、高卒にシフトしているという。

 高卒新卒採用の就職求人サイト「ハリケンナビ」を運営するハリアー研究所の新留英二代表取締役は、「製造業大手が農業高校に求人票を出すほど、人材の奪い合いが激化している」と指摘し、高校生に対する企業の見方に変化が出ていると話す。

「高卒求人に多い製造業や建設業を始め、飲食業、介護、福祉と、業種を問わず求人数が増えるなか、以前はなかった営業などのホワイトカラー職の求人も目立ち始めた。ある一定レベル以下の大学生を採用するなら、高校生のほうが素直で、一から育てたほうがいいと評価する声も中小企業を中心に出始めた」

次のページ