JRや民鉄各社が後援し、2011年度から開催されている鉄道旅行ツアーのグランプリ「鉄旅オブザイヤー」。16年度のグランプリを受賞したのは、北海道新幹線開業とともに第三セクターに移管され新たに開業した「道南いさりび鉄道」(木古内~五稜郭、37.8キロ)を舞台にした「観光列車『ながまれ海峡号』に乗ろう」だった。
普段は通勤、通学列車として使われているディーゼルカーを土日だけ大漁旗などで飾り付けし、地元の産品を使った食事などで一往復の旅をもてなす。途中の上磯駅(北斗市)では、地元商店街の人が売り子として団子やホッキしゅうまいといった地元名物をホームで販売し、車内から窓を開けて買うことができる。旧型で冷房がない車両だが、大半の列車で不可能になった「窓を開けられる」という点に着目し、ここでしか味わえない「旅情」の演出に成功した。
●JR北は背中追う存在
旅行を企画、運営したのは旅行会社の日本旅行北海道。担当の永山茂さんは、「観光バスに沿線住人が手を振っているのはこれまで見たことがないが、鉄道には振ってくれます。それだけ、鉄道によるツアーは地域住民を巻き込む力がある」と語る。
JR九州の「ななつ星in九州」を手掛け、日本にクルーズトレインを定着させた鉄道デザイナーの水戸岡鋭治さんは語る。
「鉄道車両は、もっとも簡単で効果的な町おこしの手段です。駅前から町を変えていくのには時間がかかるが、鉄道車両は会社が決断すればいいので、期待値を超える車両をつくれば駅に人が集まり、店が生まれ、町の魅力が世界に広がっていく」
かつて北海道は、1985年に「アルファコンチネンタルエクスプレス」を登場させるなどリゾート列車の先駆け的存在だった。水戸岡さんは、
「JR発足後、最初にデンマークに学び駅や列車のデザインを刷新したのはJR北海道。私たちはその背中を追いかけてきた」
と語る。自然も豊かで車窓の変化も多く、特に日本最大の釧路湿原や屈斜路カルデラが沿線に広がる釧網線(網走~東釧路、166.2キロ)は、季節を問わずタンチョウヅルやエゾシカなどの貴重な野生生物を車窓から見ることができ、世界自然遺産の知床を見渡し、冬はオホーツク海の流氷を間近に見られる。