その理由として「『趣味は何ですか?』と聞かれたとき、答えられないと“つまらない人”と思われる」(54歳女性)、「定年後に打ち込めるものが欲しいが、まだ見つかっていない」(54歳男性)、「休日に家でボーッとしているのはよくないような雰囲気がある」(46歳女性)。

 こうしたプレッシャーを受け、冒頭の男性のように「エア趣味」を設定する人までいる。ところが取材を進めるうち、それは無趣味な人に限らないことがわかった。趣味偽装は「趣味あり」の人たちの間でも広がっている。

 医療関係の仕事に就く女性(42)は仕事のときは「かりそめの自分」。夜、帰宅後に「本当の自分」を取り戻す。小説や雑誌をはじめあらゆる活字を読む“活字中毒”だが、人に趣味を聞かれたときには無難に「映画鑑賞」と答えることにしている。

「職場で仕事をバリバリこなしている人たちは、(私に対し)もっと仕事に身を入れろと思っている気がします」

●ウラ趣味の世界を堪能

 バリバリ派の人たちの趣味は、サーフィン。週末のホームパーティーの様子などがSNSにアップされる。対する女性は、チラシの不動産広告を見ては、住むことのない家の家具の配置を考えたり、タウン誌の情報コーナーに「誤嚥性肺炎予防講座」「相続講座」とあれば、参加している自分の姿を想像する。「ビル清掃」「駐車場整理」のパート募集では制服姿の自分を思い浮かべる。

「妄想の世界で遊んでいるんです。人になんて言えません。ましてやSNSなんてムリ」

 オモテ趣味の映画鑑賞で最近、印象に残った作品は「みんなのアムステルダム国立美術館へ」。面白い映画だったが、観た人が周りにいなくて共感は得られなかった。でも、そういう反応には慣れている。マイナー趣味に相手の反応が引き気味と思ったら、すぐ聞き役に徹するテクニックは身についている。

 海外を旅しても、不動産の間取り図につい目が行く。足を運ぶのはいわゆる観光地ではなく、地元の書店やスーパーだ。だから一緒に行く友だちは少ない。ひとりで行くこともある。

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