横山:ああ、いいですね! こういう感じですよね。
西村:ケストナー自身が作品を書き始めるまでの様子を描く、まえがきがいいんですよね。
<どうしておとなはそんなにじぶんの子どものころをすっかり忘れることができるのでしょう? そして、子どもは時にはずいぶん悲しく不幸になるものだということが、どうして全然わからなくなってしまうのでしょう?(中略)みなさんの子どものころをけっして忘れないように!>(高橋健二訳、岩波書店版)
座右の銘にするくらい好きな言葉です。
●帰省の旅費が足りない
横山:子どものときは、まえがきとあとがきの意味がわからなかったんですよ。それでも印象的だったのは、この一節。
〈かしこさをともなわない勇気はらんぼうであり、勇気をともなわないかしこさなどはくそにもなりません!〉(山口四郎訳、講談社青い鳥文庫版)
西村:あの時代のドイツを見ていたからこそ語れる言葉ですよね。ケストナーは詩人であり批評家。辛辣な評論も書いています。多くの作家がドイツを離れましたが、彼は残った。この状況を書き残すのが自分の役割だと思ったんでしょう。その人が『飛ぶ教室』のような作品を書いたところに、作家の哲学を感じる。正義先生がマルチンにお金を渡すシーンは覚えてます?
横山:ボロ泣きですよ、本当に。何てあったかいんだって。
西村:クリスマスの帰省のために親から送られた旅費が足りなくて、マルチンは泣きながらその原因を考える。そこで、悪いのは社会だというルサンチマンにたどり着くんですよね。貧乏な家庭で育ったので個人的にも近い感覚があった。「両親は一生懸命働いているのに、なぜ僕らはこんな生活なんだろう」と思ったとき、社会に対する問題意識が生まれたんですよ。正義先生がマルチンにお金を渡すシーンは覚えてます?
横山:ボロ泣きですよ、本当に。何てあったかいんだって。
西村:クリスマスの帰省のために親から送られた旅費が足りなくて、マルチンは泣きながらその原因を考える。そこで、悪いのは社会だというルサンチマンにたどり着くんですよね。貧乏な家庭で育ったので個人的にも近い感覚があった。「両親は一生懸命働いているのに、なぜ僕らはこんな生活なんだろう」と思ったとき、社会に対する問題意識が生まれたんですよ。