西村:高畑さんと10年くらい一緒に仕事をしたんですけど、すさまじく博識。絵画、音楽、文学、社会学、言語学、数多の日本文化、たいていのことに精通している「知の巨人」で、ついていくだけで必死でした。でも、その偉大な監督が「映画は作りたくない」と。プロデューサーとして僕が引っ張っていかないと映画はできないので、高畑さんより何かに秀でようと思った。そのときに選んだのが、民話と児童文学だったんです。

横山:そうだったんですね。

西村:『飛ぶ教室』も個人的には本気で映画化を検討していたんですが、ジブリの制作部門が解散してしまって。新しいスタジオを立ち上げてからも絶対に作りたくて映画化権を買いに行ったんです。ドイツの権利元に断られちゃいましたけど。英語で手紙を書いたら著作権を預かるドイツ人の弁護士は、「この作品はドイツ人が最も愛する作家の最も偉大な作品。だから、私はあなたへの返信をドイツ語で書きます」とドイツ語で返してきました。

●社会が不安定な時代に

横山:「名作」の映画化は難しいことも多いでしょうね。「おかあさんといっしょ」は58年続く長寿番組。先輩の時代の曲を歌うときは緊張しました。「ぼよよん行進曲」は先代のお兄さん、お姉さんのときの歌ですが、就任当初に歌ったら全然歌いきれなくて。子どもたちになじんでもらえず、しばらく歌わなくなってしまった。2年たって久々に歌うことになったときは稽古や自主練で歌い込み、曲の意味もすごく考えました。そうしたら、いままでと全然違う音や景色を感じたんです。名曲を歌うときは、自分たちの色やオリジナルの音が出せるように歌い込むことを大事にしてます。

西村:僕は、名作を扱うならその名作を超えなきゃいけないと思っています。『飛ぶ教室』の寄宿舎生活は素晴らしく幸せそうですが、作品が出版されたのは1933年。ワイマール共和国後のドイツでヒトラー政権が樹立した年です。原作には貧困や厭世観は描かれても、時代の不気味な雰囲気は描かれない。著者のケストナーは、社会が不安定な時代の子どもたちに向けて、「これこそが子どもそのものであり、理想の大人なのだ」と書いたんだと思います。これを映画にしたい、と思いました。クリエイターにイメージ画も描いてもらったんです、ほら。

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