「信じられませんでした。ひどい目に遭っているのに、なぜ親をまだ愛せるのか。そして、彼の夢を実現させるために、僕は何もできないという無力感も痛烈だったんです」
同時に植松さんは、なぜ他人を蹴落としてまで会社の利益を上げようとしていたのか、本当の夢はなんだったのか、自身の生き方を問われることにもなった。そして半生を振り返るなかで、頭に浮かんだのが、「どうせ無理」という言葉だった。
●夢壊した大人の言葉
植松さんは、樺太で成功しながら戦争ですべてを失った祖母から「お金は時代で値打ちが変わる。お金があるなら本を買いなさい。頭に入れたことは誰にも取られないから」と教えられていた。祖父がほめてくれることもあり、飛行機やロケットの本にのめり込んだ。学校の成績がいいとは言えなかったが、将来はロケット開発を手がけたいという夢も抱いた。
だが、その夢を叩きつぶしたのが、教師を始め、大人たちの「どうせ無理」の言葉だった。
「宇宙開発は頭のいい人しかできないから、お金がかかるから、夢はテスト勉強に邪魔だから……。そんな『お前にはどうせ無理』という言葉で、僕は自信を失っていたんです。でも、人が生きるためには、自信が必要です。自信があれば、他人と比べることなく、自分の道を歩めます。自信をなくすと人は未来をあきらめてしまう。それだけでなく、他人の自信を奪うようなことまでしてしまうんです」
それが児童虐待などの暴力につながり、人を憎み、果ては戦争まで生みだすことになっているのではないか。発端が「どうせ無理」の言葉にあるなら、言葉をなくすことに取り組んでみよう。
それが植松さんにとっては、「地方にある民間の小さな会社には、どうせ無理」と信じられている宇宙開発事業だったのだ。
●親にはショック療法
今、植松さんの元には全国の学校や父母会から講演の依頼が殺到している。植松さんは真意を理解してくれる人に伝えたいと、あえて講演料を会社の稼働日は70万円、休業日は100万円と明示している。それでも、植松さんの話を聞きたいとクラウドファンディングを活用し、実現させた母親たちもいた。
植松さんの言葉は、親にとってはショック療法だ。柏の葉T-SITEでも、植松さんの言葉にパッと顔が明るくなる子どもたちとは対照的に、視線を落としたり、苦笑いする親は少なくなかった。
「心配で先回りする親が多すぎます。大人が言う『どうせ無理』の言葉が子どもの可能性を狭め、自信を失わせているんです。誰でもやったことがないことをやろうとすれば失敗します。それが当たり前なんです。でも、大人は失敗に『ほうらやっぱり』と罰を与えてしまう。そうではなく、失敗の理由はなんだろう、どうしたら次は成功するだろうと子どもに考えさせてください。失敗を乗り越えて、自信を持つチャンスと時間を子どもに与えてほしいんです」
(ライター・角田奈穂子)
※AERA 2017年6月26日