夢を守る北海道の「下町ロケット」北海道赤平市の「植松電機」。この小さな会社が、国内外の研究者が集まる宇宙開発の拠点になっている。この常識を超えたチャレンジと、代表の植松努さんの思いとは──。
バシュ、ヒューン。
子どもたちが作ったペーパークラフトの細長いロケットが青空に飛んでいく。先端がはずれて傘がパッと開いた。歓声が上がる。打ち上げ成功だ。
ここは、千葉・柏の葉T-SITEで開催された「モデルロケット教室」。講師は、植松電機代表取締役の植松努さん(50)だ。
北海道赤平市にある植松電機は従業員20人の会社だが、国内外から宇宙開発研究者が訪れる。
北海道大学大学院工学院の永田晴紀教授と共同開発したCAMUIロケット、超小型人工衛星、世界で3カ所しかない微小重力実験塔と、企業規模から言えば常識を超えた宇宙開発に取り組み、成功させているからだ。
しかも、志が一致する大学や研究機関、企業とは研究成果を惜しみなく共有し、他の施設では100万円前後の使用料がかかる微小重力実験塔を快く大学機関へ貸与している。
●児童虐待がきっかけ
まるで小説の『下町ロケット』を地で行くような活躍なのだが、実は主力商品は解体現場で使われるリサイクル用マグネット。
「宇宙開発事業で損はしていませんが、儲かってもいません」
と、植松さんは笑う。
祖父と一緒にテレビで観たアポロ11号の月面着陸がきっかけで、植松さんは子どもの頃からロケットや飛行機が大好きだった。父から会社を受け継ぎ、年商を10倍に増やす一方で、一時は2億円の借金を抱えるなど、経営者としての苦難を研究者魂で乗り越えてきた。そして、満を持して憧れていた宇宙への夢に取り組み始めた、と書けば、よくできたサクセスストーリーなのだが、宇宙開発事業を始めるきっかけは意外なことだった。
児童虐待だ。
「会社の利益ばかりを考えていた頃、僕は孤独感にさいなまれていました。合理性を追求しすぎて、誰も信用することができなくなっていたからです。そんなとき、青年会議所の仲間に誘われ、児童養護施設にボランティアに行きました。そこで、一人の子どもの夢を聞いてショックを受けたんです」
施設には、親から暴力を受けたり、育児放棄されたりした子どもも多かった。しかし、ある男の子に将来の夢を聞くと、
「親ともう一度、暮らしたい」と言うのだ。