子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回はライターの武田砂鉄さんです。
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このところ、「政治家の失言を糾弾しているだけではいけない」と冷静に構えたり、「マスコミが発言の一部を曲解している」と“マスゴミ“バッシングに励んだり、政治家の失言を寛大に受け止める姿勢が散見される。
当人もその風潮を感知しており、「真意ではない」という謎めいた言い訳で、私たちが忘れ去るのを待つ。安倍首相が好む言葉を用いるならば、失言を「印象操作」し、うやむやにする。
言葉に責任を持たない政治家を信用してはいけない。失言をしつこく覚えておこう、と思う。でも、私たちは忘れる。だからこそ、戦後日本政治の問題発言を500ほど網羅した800ページ近い大著を、本棚の目立つところに置いておく。
「子どもをつくらないで自由を謳歌している女性を税金で面倒見るのは変だ」と述べた森喜朗の発言が目に入る。呆れ、そして怒る。失言を忘れさせようとする彼らに乗っかってはならぬと、本書を繰り返しめくる。(終)
武田砂鉄(たけだ・さてつ)
1982年生まれ。ライター。著書に『紋切型社会』『芸能人寛容論』ほか
※AERA 2017年6月26日