●民主党凋落が側面支援

 また党内は割れてもいた。前年に消費税の存廃を巡り解散総選挙を実施。この時、ベテランも含め少なくない自民党議員が選挙区では消費税反対を訴えた。

「同じ党議員と戦うから差別化のため党と違う意見を言ったり、集会に出たり年賀状を出したりと経費もかかる。小選挙区制はそういった問題を解消する仕組みと考えていた」(石破氏)

 だが石破氏は、「いま考えれば、政治改革の動きは権力闘争だったと思います」という。現状、制度の弊害が目立っているのは、小選挙区制の理念が徹底されるために必要だった二つの制度が、いまなお整備されていないためだともいう。

「地方分権と『政党法』です。地方分権が徹底されなければ国会議員は地域利益の代弁者であり続ける。また、政党助成金を受け取るのですから綱領や党運営の透明化など政党であるための厳格な要件も、本来作る必要がありました」(石破氏)
 政治改革で自民党離党後、民主政権で防衛大臣を務めた北沢俊美氏は、「党内で派閥の力で疑似政権交代をすればまた資金やポスト争いになる。簡単に小選挙区制が悪いとすると一党支配に逆戻りする」と小選挙区制の重要性を語る。そのために必要なのは野党の力だ。

 一度党が下野すれば、政策こそ大切だという本質に気づくというのも北沢氏の考えだ。とすれば、民主党の激しい凋落が安倍一強体制を側面支援しているとも言える。

 民主党政権下で財務大臣だった藤井裕久氏は、政権が短命に終わった理由を、

「与党経験のある政治家が少なく、議論ばかりして決めきれない。官僚を敵に回したのも原因」

 とする。一方で、こうも言った。

「安倍一強体制は小選挙区制のせいではない。どんな選挙制度でも強権的な政治家は誕生する。安倍首相は外国の脅威などを利用し『空気』をつくるのがうまい。これを許してはいけない」

 選挙制度がどうあれ、しっかりした地盤を持ち、モノ言う政治家がいれば、ここまでの一強体制は生まれない。悪い噂もある12年初当選組だが、もちろん意志のある議員もいる。

「おはようございます、小田原潔です。今日は暑いから水分を取ってくださいね」

●駅立ちで上乗せし当選

 6月中旬の月曜日、午前7時前。JR南武線・西国立駅(東京都立川市)の改札前で、自民党の小田原潔衆院議員(東京21区)が足早に行き交う通勤・通学客に声をかけていた。
「人と会うことは議員にとっての『仕入れ作業』。肉声だとポジティブなメッセージを伝えられるので、マイクは使いません」(小田原氏)

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