委員会採決省略の強行採決、実在した「怪文書」……。「安倍一強」のもと、自民党はなぜここまで傲慢になってしまったのか。その源流を「政・官の関係」「派閥弱体化」「小選挙区制」の現場で考察し、いかにして現在の一強体制が作られていったかを明らかにする。AERA 2017年6月26日号では自民党を大特集。
政治改革の掛け声のもと小選挙区制が導入されて21年。生み出したのは対抗勢力すら存在しない「一強」政治だ。
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サボり、暴言、不倫に重婚まで──2012年初当選組のスキャンダルがここ数年で頻発し、「2012年問題」とまで言われている。
「自民党の部会で若手議員が『なんで日米が北朝鮮のミサイルをつぶせないんだ』と小学生でも言わないような発言をして、それを誰もとがめない。質の低下を感じます」(政界関係者)
総選挙のたびに資質を問われるような議員も含め多くの初当選議員が誕生し、その大半が国会に定着せず永田町を去った。この現象をもたらしているのが、小選挙区制だ。自民党から政治改革を訴えて離党し、民主党で国対委員長を務めた渡部恒三氏は「小選挙区制になって政治がつまらなくなってしまった」とし、こうこぼす。
「中選挙区時代は戦う相手は自民党で、政策以外にも人間性、人柄で争っていた。今は政治家は誰でもよくなってしまった」
●政治の雰囲気も変えた
小選挙区制にはもう一つの弊害もある。党幹部が公認権や比例順位の決定権、選挙資金の配分を握るようになり、党執行部に政治家が逆らえない状況を助長してしまうことだ。「もともと小選挙区には反対だった」とする当選10回の自民党・村上誠一郎衆院議員は言う。
「安倍さんが一強と言うが、この制度なら選挙に勝ちさえすればだれでも一強になる。99人が反対してもトップがやれと言ったら反対できない制度です」
政治改革の推進役を担った山口二郎・法政大学教授も、今の一強体制は小選挙区制の弊害の表れと認める。
「中選挙区制時代は敵の存在を許容する政治運営で、少数派を尊重する風潮が今より強かった。小選挙区制は、政治の雰囲気そのものを変えた。安倍政権の妥協を許さない政権運営は、小選挙区で相手を殲滅するやり方と同じ論理。野党も戦意喪失しています」(山口教授)
では、なぜ政治改革へと進んだのか。
自民党元幹事長の石破茂衆院議員は「1991年に湾岸戦争が起き、国際社会が激変する中で地元の利益誘導ばかり考えて防衛や外交、財政といった天下国家を論じられないようではダメと考えた」と振り返る。