さかのぼれば、1994年、クリントン米大統領は寧辺(ヨンビョン)の核施設を爆撃するという計画を秘密裏に策定し、中止になった経緯があります。今回、米国はカールビンソンなどを動員して派手で芝居がかったブラフを演出し、北朝鮮に心理的圧力をかけました。しかし、94年から比べると北朝鮮の攻撃力は比べ物にならないくらいアップしており、中国の国力も増しています。そう考えると、トランプ政権ができることは外交的手段による解決しかないはずです。

 一方、このことで米国のトランプ政権の国内問題や日本の森友問題、共謀罪なども随分とフェードアウトしました。中国は米国との共同歩調のようなものが出来上がり、北朝鮮は金正恩が国際メディアで自分を売り出す絶好の機会になりました。北朝鮮も米国も中国も日本もみんな丸く収まっているのです。

 もちろん北朝鮮がやすやすと核開発を放棄するとは思えませんから、依然として危機は払拭されていませんが、やはり日本であった「開戦前夜」のような報道は異様でした。ある意味、今回のことで日本の識者やメディアが、どのような反応を見せるのか、シミュレートされたと思います。戦前、ジャーナリストの桐生悠々は「関東防空大演習を嗤う」と書いています。こんな時こそ、不謹慎といわれるかもしれませんが、「嗤う」気持ちを持たないといけないのかもしれません。

AERA 2017年5月22日号

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