海上自衛隊が初めて「米艦防護」に臨んだ。安全保障法制の新任務だが、政府から説明はなかった。ブラックボックス化が著しい。
5月1~3日、房総半島沖から太平洋を西へと航行する米海軍補給艦「リチャード・E・バード」。海上自衛隊の護衛艦「いずも」「さざなみ」が行動をともにした。政府は、共同訓練をしたとだけ説明したが、稲田朋美防衛相は初の「米艦防護」を命じていた。もしこの米補給艦が襲われたら、海自護衛艦2隻で守る。昨年施行の安全保障関連法で可能になった活動だ。
安保法は自衛隊の役割を広げたが、安倍晋三首相は「憲法の精神にのっとった専守防衛の枠内」と語る。米艦防護が問題なのは、今回のような平時に発令された時のチェックが極めて難しいことだ。
●処分受けても米軍守る
米海軍と行動をよくともにする海自にとって、米艦防護に備える必要性は高い。日本の危機に米海軍の来援を確保するためのシーレーン防衛は冷戦期からの役割だ。北朝鮮の弾道ミサイルや中国の海洋進出への警戒で連携もしている。
共同訓練も重ね、日米同盟を支えていると自負する海自。その悩みは、近くの米艦が急襲された時に対応する法的根拠のあいまいさだった。ある海自幹部は「何もしなければ日米同盟は終わる。後で処分を受けても守る覚悟だった」と振り返る。
2001年の米同時多発テロを受け米空母が横須賀を出港する際、海自護衛艦は防衛庁設置法の「調査及び研究」を根拠に護衛し、強引だと批判された。海自にすれば、安保法で法律がやっと現実に追いついた。
だが、法的手続きはきわめて不透明だ。安保法では「我が国と密接な関係にある他国」を守る集団的自衛権の行使を憲法9条との関係で限定的に認め、国家安全保障会議(NSC)の審議、閣議決定、国会承認を必要とした。
ただ、今回の米艦防護は集団的自衛権とは別扱いとなっている。根拠は自衛隊法にある「武器等防護」。自衛官はもともと、現場の判断で艦船を含む自衛隊の「武器等」を守れる。この対象を安保法で「自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動」をする米軍などに広げ、防衛相が発令する形にしたのだ。