●海自にも当惑の声
戦争にエスカレートする心配はないのか。政府は、法律に「戦闘行為の現場は除く」「必要な限度で武器を使用」とあるので、大丈夫だと説明する。だが、米艦がミサイルで急襲されたら? そうした力を持つ相手は国家である可能性が高く、防護は交戦と紙一重だ。
元内閣法制局長官の阪田雅裕弁護士は、「日本でなく米国を狙う国との戦争に発展しかねないという意味で、米艦防護は安保法制の新任務の中で憲法を侵す危険が最も高い」と指摘する。
NSCは昨年末に米艦防護の運用指針を決定。「我が国の防衛に資する活動」として「情報収集・警戒監視」「共同訓練」などを例示し、「適切に情報公開を図る」。実施に必要な米軍などからの要請を初めて受けた際はNSCで審議するとした。
ところが政府は今回実施したことすら認めない。ちなみに海自護衛艦は4月末に日本海へ北上する米空母カールビンソンに同行し北朝鮮を牽制(けんせい)。5月7~10日に中国が進出する南シナ海で米駆逐艦と航行したが、いずれも米艦防護の発令はなく、基準がわからないと当惑する声が海自の中にもある。
安保法制の法案審議では米艦防護で「説明責任を果たす」と言っていた首相だが、8日の国会では野党の質問に「警護は米軍等が脆弱な状況にある場合であり、逐一を公にすれば能力を明らかにし、活動に影響するおそれがある」と口をつぐんだ。
これでは、米艦防護を「専守防衛の枠内」に統制できているのかがわからない。安保法の制定を「政治の責任」と強調した首相だが、自衛隊の最高指揮官として責任を果たせるのか。国民のチェックができないブラックボックスでは、文民統制が泣く。(朝日新聞専門記者・藤田直央)
※AERA 2017年5月22日号