PKを決める自信もあり、僕は「蹴る気満々」だったのですが、もともとチーム内には、DFダニエル・ブロシンスキ選手が蹴るという約束事がありました。何より、あの時のチームには「全員が自らの役割をまっとうしてバイエルンに勝とう」とする雰囲気があり、それを壊したくはありませんでした。すぐに思い直し、納得してキッカーを譲りました。

 逆を取るという意味では、バイエルンの選手からも感じたことがあります。ボランチのMFチアゴ・アルカンタラ選手は、まるで後ろに目がついているかのように視野が広く、僕が後方からボールを奪いに行っても、簡単に逆を取ってプレスをかわされたのです。

 彼らの個々の能力やスキルの高さに対して、僕たちはチームとして泥臭くひたむきに戦うしか、勝つ方法がないとも感じていました。そのチャンスが決して「なくはなかった」ゲームで、もったいないともいえる引き分けでしたが、王者を追い詰めました。掴んだ自信をもとに、ここから浮上を図り続けたいと思っています。

(構成/藤原夕)

武藤嘉紀(むとう・よしのり)
1992年7月生まれ。東京都世田谷区出身。慶應義塾大学経済学部卒業。大学在籍時からFC東京でプレー。2014年にはJリーグで13得点、日本代表に選ばれた。翌15年、Jリーグファーストステージで10得点と活躍し、これを置き土産にドイツ・マインツへと移籍。1年目はリーグ7得点を挙げた。

AERA 2017年5月15日号

[AERA最新号はこちら]