●首相の手土産にしたい

 確かに条文の文言は変わっているが、その条文自体が抽象的で曖昧です。いくらでも拡大解釈できる余地が残っています。特定秘密保護法、安保関連法から連なってきた国民の自由・権利の制限、政府方針に反対する勢力の抑え込みを目的とした大きな政策の一環のように思えてなりません。

 戦前の治安維持法にしても、最初はおそるおそる無政府主義者や共産党員だけを取り締まる法律という触れ込みでした。それが社会主義者、自由主義者に拡大適用され、マスコミ、宗教家、文学者、芸術家まで対象となった。そこまで進んだら、国民にはもう反対するすべはない。国民はそうした歴史に学び、賢くなる必要があります。

 政府は、捜査情報を他国と共有できる国際組織犯罪防止条約(TOC条約)に入るため、「共謀罪」が必要だと説明してきた。同条約は187の国・地域が締結済みで、G7で未締結は日本のみ。締結すれば、国同士での犯罪者の引き渡しや国際的な捜査協力が円滑になる、という理屈だ。

 5月下旬にはTOC条約が署名されたイタリアのシチリア島でG7サミットがあるため、「共謀罪成立を手土産にしたい」(政治部記者)との思惑もあるようだ。政府・与党は6月18日の国会会期末までの成立を見込み、当初は4月中の衆院通過を目指していたが、衆院法務委員会が紛糾し、審議が遅れている。7月には東京都議選があり、国会の会期延長は難しい。

●権力になびく裁判所

「大型連休後には、天皇陛下の退位を一代限りで認める『特例法』の審議が控えている。これ以上の混乱があれば、特例法の審議にも影響が出かねない。そこで、政府は法務省の刑事局長を前面に出し、発言が不安定な金田勝年法相になるべく答弁させない戦略に徹している」(前出・政治部記者)

 早期成立への並々ならぬ意気込みだが、共謀罪が過去3回廃案になった背景には、国民の根強い不安感がある。時の政権や捜査機関に法律が拡大解釈されて、一般人まで対象になるのではないか。治安維持法のように内心や思想の自由への侵害につながるのではないか。そうした懸念に対して、与党は「(治安維持法の)当時と現代では我が国の民主主義の状況や刑事司法制度のレベル、社会意識は格段に異なっている」と訴えるが、木谷氏は「裁判所の体質は根本的に変わっていない」と反論する。

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