「実績づくりで最優先にしたのが、彼の指導で高度化させた核・ミサイルだ。米国のシリア攻撃を受け、国際情勢を有利に転換させるためにも開発しかないと決意を新たにしたと思う」

 しかし、代償も大きかった。後ろ盾だった中国やロシアとは、核開発停止の確約を迫られることを嫌って首脳外交を拒み続け、関係が悪化。国際社会からの孤立がより進み、経済制裁は強化される一方だ。その結果、中国製の日用品の物価が上がり、地方では電気、水道、鉄道の機能不全が深刻になった。核・ミサイル開発で多額の予算を確保するため、水害復旧や兵士の食料のための寄付という名目で一般住民から強制徴収までしていると、石丸氏は説明する。

 さらに米国との首脳会談で中国が約束したとされる経済制裁の完全履行が進めば、外貨難が深刻となり、軍や警察の待遇も悪化する。体制維持のための費用調達も困難に直面する。一般住民は自己責任で暮らさざるを得ない状態で、統制経済から外れて市場経済に向かう傾向がますます強くなっているという。

「軍内部の規律の乱れや物資不足は社会常識となっており、とても全面戦争ができる状態ではない。それを金正恩氏も分かっているからこそ、ますます核・ミサイルへの一点集中をするしかなくなる」

 米朝がギリギリのせめぎ合いをするなかで、“今そこにある危機”が臨界を迎えつつある。

(編集部・山本大輔)

AERA 2017年4月24日号