99年、異部門経験のため青梅工場の次世代パソコン開発部に着任した際の取締役は、後の社長の西田厚聰さんでした。国際感覚が豊かで、知性と教養がある経営者です。米国での打ち合わせで彼は私にこう言いました。「竹林くん、企業は成長だよ」
西田さんは東芝成長のため、「選択と集中」で半導体とエネルギーに注力する戦略を取りました。PWRの原発技術を持つWHを買収し、世界で受注できる環境を整える。その当時の経営判断は、どう考えても「まっとう」です。成長にはリスクが伴うもので、結果からの批判をしてもあまり意味がないと感じます。2002年に大学に移ったので、その後は東芝で何が起こったのか把握していませんが、15年に発覚した不正会計と、今回の損失を一緒にすべきではないと思います。今の経営陣にはプライドが感じられないのが残念です。
私自身は東芝で仕事をしたことを誇りに思っています。東芝が「まっとう」な企業であろうとした誇りは失ってはいけないと、強く思います。
●「役員一新せねば再生はない」(青山学院大学/八田進二教授 67)
凋落の理由に指名委員会がある。前任の社長が後任の社長を選ぶと、恩義もあり自由にモノが言えなくなる。東芝は2000年にいち早く指名委員会設置に移行したガバナンス先進企業だったが、指名委員会は前任トップの指名を追認するだけになっている。
東芝の場合、退任後も会長職や相談役などで影響力を持ち続ける。不正会計問題の引責辞任で田中久雄氏の後を継いだのが、室町正志前社長。指名したのは西室泰三元会長だ。室町氏は不正会計の社内調査の陣頭指揮をとったが、協力が得られず、数カ月で匙を投げ、第三者委員会ができた。こうした人をなぜ社長にするのか。東芝も、短期間で復活に成功したJALの例にならい、役員の一新と風土改革を断行しなければ再生はできない。
●「外部環境の変化に弱い」(エース経済研究所 アナリスト/安田秀樹 44)
WH買収時点では、東芝も投資家の多くもリスクを認識できず、むしろ優良物件とみていました。ところが、震災と相次ぐテロで規制が強化され、状況は一変しました。液化天然ガス事業でも同様の事態が起こり得るとみています。原油価格が下がった結果、事業に見合う顧客を確保できていません。東芝側の費用は20年間で最大1兆円になる可能性があり、見積もりが甘い印象。日本企業は事業環境を安定的に捉え、変化を想定しきれない傾向が強い。失敗の元になっています。今後、東芝の中心事業となるのは外部環境の影響を受けにくいもの。債務超過を解決し安定成長企業へ脱皮できるかがカギでしょう。