だが、やさしさが溢れるファンタジーだけではリアリティーがない。そこで、
「エンディングで廃虚の映像が流れますが、ここから、実は人間の世界はすでに失われたという深読みができる。『けものフレンズ』は、実はディストピアものの作品でもあるんです」
●情報無料、体験有料に
山田さんのように、作品の考察を行う人がネットで次々と登場。ツイッターでは「#けものフレンズ考察班」のハッシュタグができ、読み解きを楽しんだ。
ツイッター分析などの計算社会科学が専門の東京大学准教授・鳥海不二夫さんは、
「ネットの盛り上がりからテレビ番組の情報が拡散するのは最近多いパターンですが、ネットでの反応が結果的に番組の宣伝となっています」
と言う。ただし、福原さんたちは、ネットでの拡散を「仕掛けて」いるわけではないと言う。若い世代はネットでアニメを視聴する。だから、制作はネット視聴が前提。福原さんも監督のたつきさんもネットを楽しむことが当たり前の世代。アニメを見ればネットに感想を書き込む。
「僕らも一緒に楽しんでいて、ここで楽しんでほしいなとファンの方を見ている感じ。音楽で言うライブに近い。今や情報は無料になり、体験が有料になっていますよね。アニメにおける体験というのは、ネットでいろんなことを考えて発信して、拡散していくことだと思うんです」
と福原さん。前出の山田さんは制作者への敬意を込めて、こう語る。
「アニメのヒットで上がってくるビジネスの利益は、アニメ制作スタッフに還元してほしい」
制作者とファンが一緒に楽しむ世界は、ユートピアなのかもしれない。
(編集部・長倉克枝)
※AERA 2017年4月10日号