仮に弾道ミサイルを直立させて発射準備をしている状況を撮影できたとしても、それが単なる訓練か、海上へ向けての試射か、日本に発射されるのか、他国を狙うか、は分からない。こちらが情報分析の結果、攻撃を決意しても間に合わない公算が大だ。旧式の「ノドン」は直立させて燃料を入れるから発射準備に約1時間かかると見られるが、航空自衛隊に攻撃命令がでてから発進まで約15分、目標地点まで1時間近くかかる。巡航ミサイル「トマホーク」(時速880キロ)を日本海の潜水艦から発射しても弾着まで20分はかかりそうだ。
液体燃料をつめたまま待機できる「ムスダン」はトンネルから出て10分ほどで発射可能と見られ、2月12日に実験された固体燃料の弾道ミサイルはほぼ即時に発射可能のはずだ。
1991年の湾岸戦争時、米空軍はイラク上空で完全な制空権を握り、弾道ミサイルを破壊する「スカッド・ハント」に連日、平均60機を出し、空中待機させたが、ミサイル発射を知って駆けつけ、発射機を破壊するのがせいぜいで、発射前に破壊できたのは特殊部隊を輸送中のヘリコプターが偶然見つけ、銃撃で処理した1基だけだった。
●核反撃のリスク忘れて
すべての戦闘の第一歩は敵の所在探知だ。それを忘れたような敵基地攻撃論が出る理由は、
(1)偵察衛星の能力の限界を知らず、常時監視ができると思う。
(2)人工衛星打ち上げと弾道ミサイル発射を混同し、固定発射台から発射のイメージを抱く。
(3)攻撃するなら、すべての弾道ミサイルをほぼ同時に破壊しないと、「核による反撃を受ける」と思い及ばない。
(4)平時の航空機の対地攻撃訓練では標的の位置は決まっているから、隠された目標を空から探す困難の感覚がない──
などだろう。幸い70年余、平和を享受した日本人は戦争を具体的に考える能力を失ったようだ。(寄稿/軍事評論家・田岡俊次)
※AERA 2017年3月20日号