英国のEU離脱交渉は“世紀の大離婚協議”? (※写真はイメージ)
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 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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 早くも3月が近づいている。このスピード感がたまらない。締め切り破り原稿という名の累積債務を背負う身にとって、こういう具合に時間がすっ飛んで行くのがつらすぎる。焦る。

 だが、実は筆者よりも、もっとはるかに焦っているはずの人が一人いる。英国首相のテリーザ・メイ氏だ。3月になれば、英国のEU離脱交渉を始めなければいけない。世紀の大離婚協議。そのドラマの幕が開く。

 この離婚協議に、和解は基本的にあり得ない。話しているうちに、結局は元のさやに戻ることになった。そういうわけにはいかない。唯一、それが有り得るのは、EU側が大幅に態度を変えた場合だ。英国がEUを離脱しなくてもすむように、EU側が制度を大変更する。そのような申し出があれば、それについて、英国で国民投票をやり直すということになるかもしれない。だが、EU側がそのような譲歩に出る可能性は皆無だ。したがって、3月からの協議のゴールはあくまでも離婚だ。

 ところが、そのゴールに向かう手順についても、当事者同士の思惑が違う。EU側は、何はともあれ、まず、離婚の条件を固めたい。ポイントは慰謝料だ。

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