●7割は請負業者
産業機器などを生産する府中事業所(東京都府中市)では昨春から、毎週水曜夕方が「改善の日」となり、最初のミーティングで管理職社員が、その目的についてこう説明したという。
「不正会計の問題があり、会社が苦しい。経費削減は至上命令。できることを話し合い、実行していかなければならない」
高校卒業後、18歳から府中事業所で働く上野仁さん(60)は、寂しい思いで説明を聞いた。入社した頃は同僚の7割が正社員だったが、今では3割。代わりに増えたのは請負業者だ。
「低賃金で半年続かない。仕事を教えても、経験を積まずに辞め、業務量も減らない。コストカットばかりでなく、現場の実態にも目を向けてほしい」
上野さんは早期退職を蹴った。切実な理由があるからだ。
「製造現場の給与は安い。残業代なしなら、50代後半でようやく400万円に届く程度。私の最高年収は459万円だ。基本給が安く設定されているため、たとえ40カ月分の加算金があっても、退職する道は選べない」
巨額損失発覚のおよそ7カ月前、綱川智社長はいみじくも社内広報誌のインタビューでこう話している。
「30分でもいいので、皆さんの所に出向いて一緒に本音でお話をする。苦労されていることを聞いて、理解するのが(現場と経営の距離を近くするための)最初だと思います」
失墜した東芝ブランド。足元の従業員にも見放されているようなら、再生などあり得ない。(編集部 澤田晃宏)
※AERA 2017年2月27日号