阿部:脚本にそのセリフを見つけたとき、「あぁ、いい言葉だな」って思ったんです。いま、世界で戦争が起きているけど、「正しい、正しくない」でもめごとになる。人間関係でもそう。僕も「正しいこと」を盾に通してきたことがあったな、と心に響いた。セリフに力があったので、演技を考えずただ口にすればよかったし。

 ただ、「下町ロケット」が終わったばかりだったので、監督からは「力を入れないように、低い声を出さないで」と言われました(笑)。

天海:私が演じた美代子さんは子育てを終えて、阿部さん演じる夫の陽平と二人で暮らすことに不安を抱える50歳。いわゆるできちゃった婚だったから二人での生活はほとんど初めてなわけです。そんな彼女の「不満はないけど不安はある」というセリフは、女性ならわかるんじゃないかな。

 女性は不安を取り除くために、男性からひと言でいいから言葉がほしい。でも、男性は口先だけじゃダメだと思っているから、行動で示そうとするんですよね?女性としてはその行動がわかりにくい。男女のギャップがよく出ていました。

●頑張りが心に刺さる

──この作品でお二人が演じたのは、実年齢に近い役でもありましたね。

阿部:50代夫婦を主人公にした映画はなくはないけど、少ないよね。今回その少ないチャンスをいただきましたが、俳優の仕事は、年齢を重ねると役柄が狭まってくるのが普通だと思う。だからこそ人生経験とともに、役柄を深めていきたいんです。

天海:阿部さんのように、年齢と共に役の幅が広くなって、お仕事の声がかかる量も多い方は珍しいですよ。私が最初にお会いしたのは阿部さんが31歳くらいのときですが、いま、その当時よりカッコいいんですから!

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