阿部:40歳のとき、50代に入ると意気消沈するのかな、って思ってた。52歳になりましたが、いまのところまだそうなってない。自分では、すごく力の抜けたよい時期だと思っています。
天海:役者は年を重ねていくことを見せられる職業ではありますが、実際には人にお見せできないような姿ではいけない。その点もクリアした上で「いい顔」になっている役者さんって、そうそういないですね。
阿部:僕は天海さんの素顔もスポーツクラブで見てますが(笑)、内面から出てくる清らかさがスゴい。それを持っている人は年を重ねるとともに少なくなっていくような気がする。同年代で一緒に生きてきて、天海さんの頑張りが心に刺さるんだ。
──お二人がデビューした頃と比べて、日本映画は変わったでしょうか。
阿部:昔はフィルム撮影だったから、緊張感がありました。「1カット失敗したらいくらかかる?」って(笑)。そういうことを懐かしく思い出したりもします。
天海:ある映画で、カメラの前で監督とカメラマンが言い合いになったことがあるんです。監督はどう撮れているか確認したいからモニターを付けてほしい。カメラマンはちゃんと撮れてるんだから冗談じゃないって。
フィルム時代は「俺を信用しろよ」の職人的世界。いまは失敗しても「もう一回撮ればいいから」とか、何を撮っているかわからないけど「もう一回」と言われる世界。1カットがものすごく大切だった時代と「とりあえず撮っておこう」「これも押さえておこう」と言える時代の違いはすごくあるのかな。役者としては、「いまのは何がよくなかったんですか」と思う時もありますが(笑)。
阿部:でも、フィルムの当時もデジタルのいまも、緊張感では僕は変わらないし、僕らはその便利に甘んじてはいけない。「スタート」がかかったら、フィルム、デジタル問わず、集中力を高める訓練をしなきゃいけないと思います。