何事もスピーディーに進む現代社会で、ロマンチックで古典的なラブストーリーをきちんと撮ろうということならいけるんじゃないか。そう思い直して、承諾の電話をしたという。
パルヴァネ一家と心を通わせていく中で、次第にオーヴェの悲しい過去が明らかになっていく。子どもの頃に母を亡くし、寡黙な鉄道マンの父も事故で死んでしまったこと。思い出の詰まった家も取られ、ひとりぼっちだったオーヴェが出会ったのが妻だったこと。彼女とは満たされた幸せな日々を送ったが、生まれてくるはずの子どもを事故で亡くしたこと……。
「人生は、何かを失いながらも生き続けることが大事だと思う」
と話すホルム監督の愛が、最後まで貫かれている。
●ベルイマンより黒澤明
コメディー作品を多く撮ってきただけに、ダークなユーモアもお手の物。だが、至る所に笑いを発見できることが、映画づくりでは逆にハンディキャップになる、とホルム監督は言う。
「いかにユーモアにダメ出しするか。自殺をまっとうに描けばホラー映画になるし、笑いに偏っても不謹慎。今回のような映画ではユーモアと悲劇をうまくミックスさせることが重要で、それは僕の見たい映画でもある」
実はベルイマンより黒澤明に影響を受けた。なぜですか?
「ベルイマンにはユーモアが欠けているから」
(フリーランス記者・坂口さゆり)
※AERA 2016年12月26日号
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