最大の見どころは、みくりと平匡のじれったくて初々しい恋模様。「ムズキュン」なる新語も生まれたが、国内外のドラマに詳しい作家の柚木麻子さんはこう話す。
「私は、ムズキュンというよりも、二人が理詰めでコミュニケーションをとるところに魅力を感じました。二人とも合理主義で理屈っぽくて、それがいい。日本の恋愛ドラマって、恋愛センスのある人しか参加しちゃいけない空気がありますが、見事にそれをひっくり返した」
みくりの脳内妄想が、さまざまな作品や番組のパロディーや画面分割などで展開されるつくりも秀逸だ。
「米ドラマ『アリー my Love』以降、その手法が日本でも導入されましたが、ことごとく失敗してきた。成功したのは初めてと言えるんじゃないでしょうか」(柚木さん)
●羽生も踊る恋ダンス
ネットを使った情報発信の巧みさ、さまざまな楽しみ方が用意されている点も新しかった。
星野源が歌う主題歌「恋」にあわせて登場人物たちが踊るエンディング「恋ダンス」の公式動画は、YouTubeでの再生回数が6500万回を超えた。振りの解説や「踊ってみた」動画も多数投稿され、フィギュアスケートの羽生結弦や吉本新喜劇のメンバーなどが踊る動画も話題になった。
古田新太演じる平匡の同僚・沼田やみくりが作る料理のレシピが実際のクックパッド上に掲載され、作って楽しむこともできる。
「つまらない番組はSNS使いも下手。『逃げ恥』はこれ以上やるとうざいという線を越えない、絶妙なバランスを心得ている」(柚木さん)
だからこそ柚木さんは、「ロス」についてもさほど心配していないという。
「恋ダンスに平匡の同僚・日野(藤井隆)が入っていないのはなぜか、という声がSNSであがったら、すぐに日野が踊るバージョンが追加された。制作陣がちゃんと視聴者の声に耳を傾けている。だから、続編を希望する声をあげれば、きっとその声に応えてくれるはずです」
スピンオフへの期待も高まる。確かに、沼田、日野に加え石田ゆり子演じるみくりの伯母・百合ちゃんと大谷亮平演じるみくりのもう一人の雇用主・風見、そしてみくりの友人でシングルマザーのやっさんなど、登場人物はいずれも魅力的で、誰を主人公にしても成立しそうだ。