来春には福島第一原発事故をモチーフにした「STOP」も日本公開される。原発5キロ圏内に住んでいた夫婦が子どもの誕生を前に、放射能による胎児への影響を恐れ、次第に心を蝕まれていく物語だ。日本で初めて今年2月にゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映されると、激しい内容と予想外の展開が大きな反響を巻き起こした。

「この3作に通じるのは『安全』という問題です。国や政治家によって、自然災害や放射能によって、それが脅かされるのでは?という恐怖がいま自分を駆り立てている。原発の怖さを知らせるための作品でもあるので、かなりハードですよ」

●山ごもりで得た新境地

 1996年に35歳でデビューし、順調にキャリアを積んできたギドク監督。しかし08年、「悲夢」の撮影中に主演女優が死にかける事故が起こる。そのショックから映画を撮れなくなり、3年間の隠遁生活を送った。その様子はドキュメンタリー「アリラン」(11年)に昇華され、映画界に復帰した。

「あの3年間は大きなターニングポイントでした。大変な時期だったけれど、自分をじっくり振り返ることができた。アリラン以後は『顔が穏やかになったね』とよく言われます」

 いまも一人暮らし?と聞くと、照れたように顔をほころばせた。

「僕にも家族団らんがあった時期もあるんですけど(笑)、いまはみな別々です。21歳になる娘は日本語が上手で、いま札幌でワーキングホリデーをしているんです。映画の世界には進まないと思いますが、一人でたくましく、がんばっていますよ」

“鬼才”が父親の顔を見せた。(ライター・中村千晶)

AERA 2016年12月12日号

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