車の排熱を電気に変換する熱電変換技術を研究する東京理科大学基礎工学部の飯田努教授は、経産省などのプロジェクトでこれまで材料開発などにメドをつけた。次は実証段階で、防衛装備庁の制度に応募をしたという。
「熱電変換技術は今後、乗用車の省エネ技術として欠かせなくなると見られています。メーカーから厳しい基準が課せられる小型車と比べて、(防衛用の)大型車両なら初期段階の技術実証を進めやすいのです」
昨年、この委託研究制度が始まると、大学関係者や研究者から「軍事研究の是非」をめぐって議論が噴出した。
新潟大学では、同制度への応募について学内研究者から相談があったのをきっかけに専門家会議を開いた。その結果、昨年10月、「科学者の行動指針」を改定。「軍事研究をしない」として、同制度への応募を禁じた。
科学者の代表機関とされる日本学術会議(会長・大西隆豊橋技術科学大学学長)は、戦後2度にわたって「軍事研究」を禁止する声明を出してきた。ところが、今回の制度を受け、今年6月から声明の見直しも含めて、議論を続けている。
この検討委員会は毎月開かれているが、議論の方向性がわかりにくく、迷走しているように見える。関係者はこう話す。
●波紋広がり応募は半減
「日本は平和国家なので、研究者は軍事研究をしないと、建前では言ってきた。ただし、実際は研究者が防衛装備品の研究開発に携わってきています。目に見えるよう委託研究制度を始めたことは、実態に建前を合わせようとしているように見えます。学術会議がまた『軍事研究禁止』の声明を出したら、実態に合っていないと、ネット上でたたかれるんじゃないかとさえ思います」
今のところ、防衛装備庁の委託研究制度への風当たりは強いようだ。今年度の応募件数は44件で、昨年度の109件から半減した。ある大学研究者は話す。
「応募しようとしたら、出さないようにと大学の事務方から止められました」
前出の飯田教授も、戸惑う。
「著名な先生から、『防衛省予算に手を出すべきではない』と言われました。われわれは社会貢献に向けて研究をしているのですが……」
物理学者である池内了(さとる)・名古屋大学名誉教授は11月中旬、防衛装備庁担当者も参加した前出の委員会で「軍事研究反対」を訴えた上で、こう指摘をした。
「研究者だって、(他の研究費と異なり)防衛装備庁の研究費で研究しています、とは言いにくいでしょう」