小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 今年のパースは例年になく天候不順で、もう初夏だというのに風が冷たい日も。寒がりの私は裏起毛のパーカーが手放せません。先日、そんな肌寒い気候の間に1日だけ、いきなり気温36度になった日がありました。

 予報通り午前中からぐんぐん気温が上がって、さすがにクーラーを入れないとバテそう。3時頃に子どもたちが暑い暑いと言いながら帰ってきました。夕方5時から習い事なので、その前にちょっとだけビーチに寄っていかない?と渋る男3人を急かして、一家で海へ。

 そしたらまあ、ハイシーズンの日曜日かと思うほど浜が混んでいたのでした。服を着ているのは私たちぐらい。駐車場では、ワイシャツとネクタイ姿で、もどかしそうに水着に着替えている男性も。あれ? 今日って普通の水曜日の、午後4時だよね? みなさんお仕事は!? その日は波がよかったせいもあり、来るわ来るわ、サーフボードを抱えたビジネスマンやらビキニの女性が押し寄せて、道はビーチ渋滞です。今ごろオフィス街はガラガラなんじゃ?と思うくらいの人出でした。

 天気がいい平日の午後に、じゃあビーチ行くか!と言える社会はハッピーです。海が大好きなオージーたちは、このところの寒さでうずうずしていたのでしょう。みんな本当に嬉しそう。職場には何て言ったのかな、仮病かな、それとも予報を見てあらかじめ有給休暇をとったのかしら、などと訝(いぶか)っていた私も、波に足を浸していたら「だって天気いいなら海行きたいじゃん?」というシンプルな考えになりました。きっとどこかのお店はいつもより早く閉めちゃっただろうし、取引先に電話したら担当者が不在って言われた人もいるでしょう。

 平日でも午後6時には閉まるお店が多いパースでの暮らしには最初戸惑いましたが、働いている人が早く家に帰って家族と過ごせるならいいことだよなーと考えるようになりました。お客様は神様なのではなく、お店の人もお客さんも、同じ人間。どの店も遅くまで営業しているけど疲れ切った人が多い社会よりも、お店が閉まるのが早くても、自分も波がよければ早引けできる社会のほうが暮らしやすいでしょう。今よりサービスはユルくなっても、日本も生きることを楽しめる働き方ができるようになるといいな。(小島慶子)

AERA 2016年12月5日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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