遠藤周作の代表作『沈黙』をマーティン・スコセッシ監督が映画化。来年1月の日本公開を前に、世界文化賞を受賞し来日した監督が、遠藤の長男・龍之介氏と語り合ったこととは。
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遠藤:世界文化賞の受賞おめでとうございます。
スコセッシ:ありがとうございます。受賞は名誉以上のものでした。日本は私に、また、私のなしてきた仕事に大きな影響を与えた国。いまも続く仕事、映画「沈黙─サイレンス─」にもすごく強い影響を与えている。私にとっては夢のような出来事でした。
遠藤:数々の候補作品の中から『沈黙』を選ばれた理由について伺っていいですか?
スコセッシ:若い頃、カトリックに傾倒していた時期がありました。神父になりたくて、15歳の頃は神学校に通っていました。結局、退学勧告されてしまいましたけどね(笑)。
ただその後も、キリスト教やカトリックの価値観は自分の生活の中心でした。そうしたことをいつも考えていると、最終的には人間の本質に迫ることになる。人間の善と悪は一体どこで異なり、しかも善悪が同時に存在するとはどういうことか。映画「沈黙」はそうした思いから自然に発生したものです。「最後の誘惑」をつくった後に小説を読み、その時に人間の本質を探究するというミッションはまだずっと続くものだと悟りました。
遠藤:私が父から映画化の話を引き継いだのが、20年前です。
スコセッシ:周作さんとは一度ニューヨークで、共同脚本家のジェイ・コックスと一緒に会い、映画化の決意を伝えました。1992年頃だと思います。周作さんはジョン・キャロル大学の名誉博士号を受けるために渡米されていました。
遠藤:その旅行のことは、私も父から聞かされていました。